今日の経験値

主に映画の話。70〜80年代の映画やカルチャーを懐かしむことが多いかも。

人生はいきなりオモテにもウラにもなる『ヒメアノ~ル』

意外にも切ないズシリとした映画だった。
あまり邦画は見るほうじゃないので、『クリーピー 偽りの隣人』同様、この監督のセオリーとかの理解が足りてないかもしれないけど、作りが変わってる映画だなと思った。

結構リアルな殺人・暴力シーンもあるので、R15+指定になっているけど、自分的にはそっちの描写よりも、壊れてしまった人間の心や過去の取り返しのつかない出来事などが重かったり切なかったりでキツかった。

 

以下、ネタバレってほどじゃないないけど、あまり情報入れたくない方は読まないほうがいいかもです。


この映画で一番ビックリしたのは映画のタイトルの入り方。映画が半分くらい過ぎ、誰もが忘れた頃にタイトルが突然入る。「おお!新しいなー」と思いつつも、これは完全に狙ってやってるんだなあと、ふと予告編のことを思い出した。
予告編も全く同じで、すっとぼけたラブコメのようなアホっぽい映画だと思わせておいて、後半いきなりわかりやすくタイトルロゴまで変えて、暴力シーン全開の映像にガラッと切り替わる。最初ヘラヘラ馬鹿にした感じで見てると、いきなり虚を突かれた感じになる。


『ヒメアノ~ル』予告編

本編もまったく同じで、前半は笑えるラブコメ映画として進む。
だいたい主人公の岡田(濱田岳)のファッションひとつ取っても笑うしかない。あんな色やデザインのパーカーとか髪型とか80年代の貧乏予備校生か!キモいバイト先の先輩、安藤さん(ムロツヨシ)のほうがまだ全然オシャレだしw

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岡田は、その安藤さんの好きな女の子に公園で告白されたり、初デートで女の子の部屋でエッチしたり、いかにも童貞くんが夢に思い描くような展開に、ありえないと思いつつもドキドキするw  それにしてもコンドームの自販機って一体いつの時代だよw いろんな意味で昭和ラブコメ感全開。監督は絶対わざとやっている…よね?

と、そんなこんなで前半はもうずっとニヤニヤしながら見てたけど、意地が悪いことに、岡田のエッチシーンとシンクロするような見せ方で映画は暗黒面に入れ替わる。

後半は完全に森田(森田剛)が主役に変わる。キャラの壊れっぷりがヤバくて想像以上にバイオレンス。まるでダークな韓国映画のように嫌〜な暗い雰囲気になる。

で、最後まで見終わってみると、単に前半と後半で雰囲気変えてみましたっていうわけではなく、誰でも人生いきなりこんな感じで突然オモテにもウラにもなりえるってことが言いたかったのかなと思った。

主人公の岡田はつまらないボヤキの毎日から、いきなり不釣り合いとも言えるくらいの可愛い女の子から告白される。突然の陽の当たるオモテ面へ。

でも一方で、もうひとりの主人公の森田は、もう抜けだすことが不可能なくらいウラ面に入り込んでしまっている。元々は明るいオモテ面にいたはずなのに。
ウラ面へ入るきっかけはほんの少しの出来事だったかもしれなくて、しかもそれに加担したヤツはそれほどのことをしたという意識もない。

誰だってこういうウラ面に入っちゃう可能性があるし、もしくはそれに加担しちゃってるかもしれないことを突き付けられた感じ。

自分の今の状況に安堵する反面、今まで色んなとこで誰かを傷つけてきたかもしれないと考えると、微妙な感情が湧き上がり胃がキリキリする。

平凡で無害な男に見える岡田(濱田岳)が、実は結構残酷なことを森田にも安藤さんにもしている。本人はその自覚すらあまりない。
にも関わらず森田は岡田に対し「親友」だったことを思い出すのが切ない。

安藤さんも岡田に対し「親友」って言葉を何度も口にするし、裏切られて死にそうになっても、それでも「親友」を口にするシーンがとても切ない。

 

非常に面白い映画ではあったけど、いじめの残酷さが頭から離れなくて周りの人にはあまりオススメしにくい映画かも…。

一時期、ダークでキツい内容の韓国映画パク・チャヌクキム・ギドクの作品とか)を好んでよく見てたけど、最近はちょっとこの手の映画は見るのがキツくなっている気がする。
もしかしたら日本映画のほうがより身近でリアルに感じられる分、よりキツイのかもしれない。