ウインド・リバー
町山智浩さんがラジオ(たまむすび)で紹介していてるのを聞いて気になっていたので、仕事も早めに終わったこともあり公開日に観に行ってきました。
あまり話題になってないのか地元では1スクリーンだけ、東京でも4館くらいしかやっってないという扱いですが、もっとたくさんの人に観に行って欲しい!もったいない!と思うような良作でした!
※ネタバレしてます!
ワイオミング州ウィンド・リバー保留地。FWS(合衆国魚類野生生物局)の職員、コリー・ランバートは荒野のど真ん中で少女の死体を発見した。FBIは事件の捜査のために、新人捜査官のジェーン・バナーを現地に派遣した。自然の過酷さを甘く見ていたバナーは、捜査に難渋することとなった。そこで、バナーはランバートに捜査への協力を依頼した。2人は荒れ狂う自然と剥き出しの暴力に直面しながらも、ネイティブ・アメリカンの村社会の闇を暴き出していく。
あまり知られていないアメリカ先住民の厳しい現状を題材にした社会問題を扱った映画、とのことで正直観る前は「ちょっと疲れちゃうかもなあ」と少しネガティブな気持ちでした。
社会派な映画って少し苦手なんですよねぇ…。嫌でも厳しい現実を見せられがちじゃないですか。それなりに向き合う覚悟が必要だったりして。
社会問題を扱った映画と言っても、正統派ドキュメンタリーや人間ドラマ、マイケル・ムーアの突撃取材やサシャ・バロン・コーエンのドッキリコメディだったりと手法は様々ですが、サスペンスタッチものがたぶん多いですよね。
シリアスな題材との相性は良いので、そりゃまあそうなる気はします。
むしろサシャ・バロン・コーエンのような映画作るほうがよほど難易度高いかもw
この作品もクライムサスペンスとしてすごくよく出来ていて、終盤はもうドキドキさせられっぱなし!緊張感もハンパなかったです。
バディ・ムービー的な要素もあって、それもうまく物語に活かされてました。
事件を担当するために派遣されるFBI捜査官は、あまり現地のことを把握できてないノーテンキで頼りなさそうなエリザベス・オルセン(そういう見せ方をしている)。
そのバディを努めるのが、つらい過去を持つ現地のハンター。終始苦悩した表情が似合うジェレミー・レナー。
なんと二人ともアベンジャーズのヒーローコンビ!今回は弓矢じゃなく超強力スナイパーライフルだぜ!
http://lionsgateathome.com/wind-river
スーパーヒーローたちも最近は苦悩してますけども、ジェレミー・レナーは『ハート・ロッカー』でも苦悩する男をバッチリ演じてますし、今回の役も安定の苦悩っぷり?wでした。
エリザベス・オルセンのほうも意外とハマってて、女性捜査官という設定もレイプ事件に固執する理由になってるし、頼りなさげな門外漢がだんだんと現地の人たちの厳しさや苦悩に気づき、寄り添って、力強い存在になっていくとこも良かったです。
事件の真相の追い方、解き明かし方もすごくうまくて、うまく観客をミスリードさせつつクライマックスに突入していきます。
町山さんがラジオで「これは西部劇だ」と言ってましたが、確かに自分の身は自分で守るしか無い土地であるとか、保安官(捜査官)との追跡劇であるとか(トゥルー・グリッド思い出しました)なるほど確かに言われてみればという感じですが、西部劇に明るくないのでアレですが、自分は復讐劇としてこの映画を堪能しました。
差別され、抑圧され、大事な家族を奪われても泣き寝入りしかできない状況を丹念に描いて、最後にそれを爆発させるシーンのなんと爽快なこと(不謹慎ですみません)。
何台もの車を連ねて敵の本拠地にカチ込みに行くシーンでの俯瞰ショットとか、見せ方とか音楽とか、何か知らんけど気持ちが高揚するんですよね。
そして最後。ジェレミー・レナーの怒りの一撃が凄まじい。何そのライフルの威力は?これまで抑えに抑えてた怒りを開放するかのような、とんでもない威力でねじ伏せます。マジであのライフルには唖然としました。なんというカタルシス!
そして首謀者にはじっくりと苦しみを与え復讐を果たします(ネタバレごめんなさい)。
この映画、ファーストシーンは何かワケあり風に見せてるけど、最後に状況を明かされた時、あのファーストシーンの重みが出てくるようになってて、たぶん二度目に観るとあのシーンの見え方が全然違ってくるんじゃないでしょうか。
For me @WindRiverMovie is about all the missing Native American women #WindRiverArt creative brief entry https://t.co/PFFV2JC3Z7 @PosterSpy pic.twitter.com/ynAJhuemXz
— AltoMedia (@AltoMediaSocial) August 28, 2017
彼女は戦士だった。彼女は6マイルも走ったのだ。
ズッシリきます。
以前、感想を書いた『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』や『デトロイト』なんかがそうなのですが、悪の正体が不明瞭だったり、わかっていてもどうすることも出来ないという幕引きは確かに考えさせられるんだけど、すごく重たいものが残っちゃうので正直キツいんですよね。モヤっとすると言うか(それこそが作り手の狙いなんでしょうけどもちょっとズルい気もしたり)。
その重いテーマに興味を持ってもらう手法はサスペンスだったりホラーだったり(あるいは笑いだったり)という映画ならではのエンタテイメントを用いているので、なんだか複雑な気持ちになっちゃうんですよね。
この映画に関しては、復讐劇という主人公にも観客にも溜飲の下がるエンタテイメントにしているので、ある程度は重たい気持ちが緩和されます(だからといって根本の問題解決にはなってませんが)。
自分的には映画としても、問題提起としても、ちょうど良いバランスじゃないかと感じましたが、この辺は人によって全然感じ方が違っちゃうんでしょうね。
あ、今思い出したけど復讐劇と言えばタランティーノでしたね。
アメリカが見ようとしなかった黒人奴隷をテーマにした『ジャンゴ 繋がれざる者』も(最後は)大変スカッとする復讐劇でした。
まあでも、西部開拓時代に入植者たちに追われて、今では保護区に押し込め存在すらしてないかのような扱いを受けている先住民の方たちを、西部劇の手法で世に知らしめるというのも皮肉の効いた映画ですよね。
そうそう、皮肉といえば、レイプを扱った映画なのに、最後のスタッフロールのところでワインスタインの文字が出てきて(たぶんハーヴェイではなく弟さんのほうだと思いますが)驚くと同時に笑っちゃいました。これも皮肉?
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監督のテイラー・シェリダンはこれが初監督作品なんだとか。
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