運び屋
泣く子も黙るクリント・イーストウッドの最新作。
「もう自分は監督業に専念する!出演はグラン・トリノで最後!」とか言っておきながらあっさり不履行(まるでどこかのハヤオさんのようw)。
でも誰も文句なんて言わないし、それどころか皆首を長くして待ってたのではないだろうか。私もそう。なんか悔しいw
私は、イーストウッドの映画はこれまで強烈に好きって感じはなく、どっちかというと「安定した面白さでハズレがない」という捉え方だったのですが、『グラン・トリノ』でもう立ち上がれないほどぶん殴られまして、正直あれでもうイーストウッド映画には満足しちゃったかもしれません。
その後に出た映画ももちろん欠かさず観てますが、正直『グラン・トリノ』超えはもう無いんじゃないかと思ってます(『ジャージー・ボーイズ』や『ヒアアフター』が不意打ち的に良かったけど)。
今回の『運び屋』も結論から言うと「まあまあ良かった」という感じでした。
ただ、予告編がウソというかミスリードというか、なんかハードボイルドなクライムサスペンス風じゃないですか?でも実際は「あれ、思ったよりコメディっぽい」という感じで変化球だったなーと思いました。
まあ、変化球というなら前作の『15時17分、パリ行き』がもう消える魔球と大リーグボール1号が合わさったような魔球だったので、それに比べれば今回はずいぶんまともだなとは思いますがw
ちょっとネタバレあります。
若い頃から家族をほったらかし、娘の結婚式もすっぽかすようなダメオヤジがジジイになって財産も無くし、弱った挙げ句に家族にすり寄るも元妻や娘からは「今更何言ってるの!」と完全拒否!さあどうする?爺さんどうする?と困ってるところに若造から助け舟。爺さんは誘われるままにドラッグの運び屋稼業に手を染めていく…というお話。
イーストウッドファンや映画好きにとっては、実話ベースとはいえ、今まで女遊びや映画作りで好き勝手やってきたイーストウッド自身を投影したキャラクター設定であることは明白なんだろうけど(私は最近そんな人だと知ったw)、そういうことを知らなくても、爺さん初めてのおつかい(犯罪)の面白さや、警察が徐々に迫ってくるサスペンス、マフィアのおっかなさにハラハラドキドキする部分は楽しい。
また、家族の大切さに気づくとか(表面的には)感動風味になっているので、「良い映画だったなー」と受け取る人も多いと思う。実際、私の妻も普通に「良かったわぁー」と言ってました。
もちろん私もそういう感想持ったし良かったんだけど、とぼけているのかふざけているのかよくわからない演出が多くて、笑うに笑えない(笑ったけどw)変な映画だったなーというのが観終わった時の感想でした。
まず、いきなり冒頭で南米の人たちとの会話から始まるので、さっそく麻薬取引か?と思いきや、なんとイーストウッドはユリの栽培農家という設定に驚くw
ユリの品評会で優勝するような人であるとか、気さくでジョークばかり言う軽いキャラクターにまず面食らった。勝手に『グラン・トリノ』のコワルスキーのキャラを想像していただけに。
まあ、そのキャラクター設定はすぐに飲み込んだけど、そのあと次から次へとイーストウッドがあの手この手で笑わせてくれるのだ。
女好きなのは良いとして、モーテルに若い女の子2人も呼んで楽しんだり(もうすぐ90歳だよ?)、運び屋家業で得たお金で(古いトラックに愛着のある爺さんと見せかけて)いきなりピッカピカの最新トラック買ったり、仕事中に緊張感なく歌を歌ったり、ギャングたちが銃を出して揉めてる横で他人事のようにリップクリーム塗り始めたり(マジ何なのあれw)、麻薬カルテルのボスに「この豪邸建てるのに何人殺したのか?」と真顔で言ったり、しまいにはもう一度3Pおっぱじめたり(死ぬ〜とか言ってるしw)。
そういうのがまだまだある、たくさんある。緊迫感とゆるゆる感を交互に入れてくる感じ。なぜ?w
話は逸れるけど、私の父親は85歳で、映画の中のイーストウッドのような動きなんですよね。もうヨボヨボ。実にリアルだなあと思いました(実際のイーストウッドはまだ全然シャキシャキしているそうですね)。
さすがにあそこまで元気ではないが、父も若い頃は女遊びばっかりやってたようだし、今でも若い店員のお姉ちゃんとかに馴れ馴れしく軽口叩いてジョーク言ったりする。そういえば若い頃は中国とか韓国の人を蔑称で言ったり(さすがに今は言わないけど)、共通点あるなあーと思って観ながらなんだか複雑な気持ちにもなりました。
だってずっと憧れてたイーストウッドが父親とあんまり変わらない爺さんなんですよw(映画の中とはいえ)。
ほんとにこんな動きするんですよね。
ラストのくだりは、ツイッター友達の8マンさんが言うように、確かに手抜き感ありましたね。
裁判のくだりも何だか軽かったし、塀の中でせっせとユリを育てているシーンは、感動台無しって感じすら受けました w
でも、その後、いつものようにしんみりしたジャズが流れるエンドロールでなぜか「ああ、大人な映画だなあ」と感じたんですよ。
大人っぽいおしゃれな、という意味ではなく、酸いも甘いも味わってきた大人(老人?w)の余裕というか開き直りというか、そんな感じを。
『許されざる者』『グラン・トリノ』とこれまでの自身の映画をネタにした映画を撮ってきたイーストウッドが、ここに来て実人生を振り返って達観したような開き直りのようなそんな境地を見せてきたことに驚きつつも、もしかしたらまだまだ自分語りを続ける気満々なのでは?という気がしないでもなかったり。まだまだ楽しませて欲しいですなあ。
余談
そういえば、『グリーンブック』を観るとフライドチキンが食べたくなると話題になっていたが、この映画ではポークサンドウィッチ(とビール)が無性に食べたくなる。あの店、日本人が来たら皆ジロジロ見るのだろうか。
余談その2
警察にしぶしぶ情報を流すフィリピン人と、最後の女性裁判官の顔がとてもインパクトあってずっと頭の中に残っています。なんでああいうところにこだわるの?なぜw
あと、ヴェラ・ファーミガの妹のタイッサ・ファーミガ、マイケル・ペーニャ、アンディ・ガルシアとか渋めの俳優がちょい役で出てるのも良かった。元妻役のダイアン・ウィーストはあの『ハンナとその姉妹』に出てた人だったのか!特徴的な顔した妙に印象に残る人が多いとこも楽しめました。
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前作の感想も書いてます。
やっぱりこれが最高!何度観ても泣ける。
こちらもおすすめ。
へレディタリー/継承
今さら感がハンパ無い。
「あー、去年話題になったアレね。はいはい」とかいう声が聞こえてきそうですが、がんばって書きます。さらっとね。
まー「めちゃくちゃ怖い」とか「歴史に残るホラー」とか前評判がすごかったので、すぐに観たかったのですが、地方は売れ線以外は公開が遅れるのが普通なんですよ。でも公開してくれてありがとう。
ネタバレとか一切見たくなかったので、映画記事はおろかブログの記事も完全無視してましたが、それゆえか期待ばかりが大きくなりすぎて、結果良かったのか悪かったのか。
でもこれでやっとやなぎやさんのブログを読むことが出来ました。この辛辣な評を最初に読まなくて良かったw
しっかし、あれだけ怖い怖いって評判だったのですが、自分が予想していたような怖さの映画じゃなかったです。
いや、予想したような部分もあったのですが、全体的には怖さよりも「なんなんだこれは?」としか言いようがない意外な展開に翻弄された印象が強くて、あらすじを書こうと思ってもぜんぜん書けないような映画でした。
いや、ほんとあらすじ書けないですw
無理くり書くと「悪魔にとりつかれた悪魔みたいな家族の物語」(あらすじでも何でもないw)。
いろんなホラー映画が混ざってる感じでしたね。でも何にも似てないというか。
とにかく予想した展開をことごとく、ことごとく、ひっくり返されるので、最後の最後まであっけにとられたまま終わっちゃいました。
笑っちゃうという意見も全然わかります。
私の大好きなサム・ライミ監督の映画でもよくわかるようにホラー映画はコメディみたいなものだし、お化け屋敷なんて皆ギャーギャー言いながら顔は笑ってますし。
エクソシストのリンダ・ブレアがブリッジしながら階段を駆け下りるシーンは今となってはどうやっても笑いのポイントですよねw
https://mamegyorai.jp/net/main/item_detail/item_detail.aspx?item=144764
数々の作品に影響を与えたフィギュア化されるほどの名シーン。
この映画もそういうとこはあって、何だそれ?って笑っちゃいそうになるとこもたくさんあるんだけど、一方でこんなシチュエーションになったらマジでぞっとするよな…って強烈なシーンもあったり、ほんとに掴みどころなかったなあというのが正直な感想です。
主な登場人物は、おばあちゃん、お母さん、お父さん、息子、娘の5人家族なのですが、話が一切通じない家族が世の中でいちばん怖いよね、という映画でした。
家族関係をチャートにすると、
ヤバい人← →まともな人
お母さん>>>>おばあちゃん>娘>(越えられない壁)>息子>お父さん
こんな感じです(左三人の順番についは異論認めますw)
もちろん観客は普通の人の目線ですから、息子やお父さんの目線でこの家族を見せられることになります(最初の方はお母さん目線もあるけども後半はもう完全に振り切られちゃいますw)。
いっちばん気の毒なのは息子。これは異論無しだと思います…。
まず娘に起きる出来事。普通なら狂うよね。ここの設定はほんとに怖かった。
次にお母さんとの対峙。トラウマ級の暴言。いやがらせ。最後まで徹底的に怖い思いさせられます。
お父さんもこんな家庭持つとつらいよなあ。それでもちゃんと家に帰ってきて何とかしようと努力してるんだけどひどいことになっちゃいます。
自分だったら寅さんみたく黙って旅に出ちゃうだろうなあw
そんな目線で見ると、ほんとに怖い怖い映画です。
躊躇なく鳥を首チョンパする娘(妹)
嫌すぎる。
あれ?もしかして男目線だから怖いのか?この映画(違う)。
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出演者もほぼ無名な俳優ばかり。
お母さん役のトニ・コレットは『リトル・ミス・サンシャイン』のお母さん役の人だそうな。あれもある意味ゾッとするほど怖い家族の映画でしたねw (嘘ですよー)
グリーンブック
今年はアカデミー賞当日にたまたま有給休暇を取っていたので、朝っぱらから中継見て楽しんでました。
これまであんまり賞レースとか興味なかったのですが、お祭りとして見る分には悪くないなと思い、2年くらい前からツイッターとかでワーワー楽しむようにしてます。
で、作品賞を見事ゲットしたのは『グリーンブック』。
あの『メリーに首ったけ』のファレリー監督が作品賞受賞ってちょっとびっくりしましたが、ヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリの珍道中映画?という情報が流れてきた時からめっちゃ楽しみにしていたので、公開初日に仕事終わってソッコーで観に行きました。
金曜は映画が安いので混みがちなのですが、テレビでも散々報道されていたアカデミー作品賞という威力は凄まじくほぼ満席!こんな混みようはスターウォーズ最新作公開初日以来ですよ(ネットで席を予約しといてよかった〜)。
結論から書いちゃうと、メチャクチャ良い映画でした。
最近、観た映画がピンとこないことが多くて、観終わった後にネットのレビューや町山さんの解説聞いたりしてなんとか理解が追いつくという、そんな私がスッキリ素直に「面白かった〜」と思えたので、たぶん「映画詳しくないけどなんか面白いの無い?」という感じの人に自信を持ってオススメできます…たぶん(自信はどこいったw)。
舞台は1962年のアメリカニューヨーク。
ナイトクラブの用心棒をやってる粗野で大食いで典型的な下町育ちのイタリア系移民ヴィゴ・モーテンセン。職が無くなったので、しょうがなく金持ちでインテリで著名なピアニストの黒人マハーシャラ・アリの付き人として、アメリカ南部を演奏会ツアーで周る珍道中に出る。そこで二人に友情が芽生えるというお話。
ネットでもちらほら書かれてるように2011年のフランス映画『最強のふたり』によく似ている。大富豪の身体障害者と貧困層の黒人男性という普通なら交わることのない階層の人たちの友情物語、という構造がグリーンブックとほぼ一緒。
タイトルのグリーンブックというのは、黒人向けの旅行ガイドブックのこと。つまり、白人向けのホテルとかレストランに間違って入ってひどい目に合わないように作られたもの。
まだ黒人差別が根強く残っている時代なので(特に南部)、黒人隔離法がまだまだまかり通っていて、トイレもバスもレストランも白人と区別されている。うっかり白人のテリトリーに入ろうものなら殺されてもおかしくない、そんな時代。
差別をテーマにしていると聞くとなんだか重そうだけど、そんなことはなく、全編ユーモアに溢れた コメディ映画なのであまり疲れたりはしない。
最近、なんとなくどよーんとした少し重たい映画が多いのもあって、個人的にはその明るさというか、ほんわかした気持ちになれるとこがとても良かった。
最近はマーベルのヒーロー映画ですら重たいテーマが見え隠れして、スッキリさせてくれないところあるじゃないですか。そんな風潮にちょっとカウンター当てたようで逆に新鮮に感じたというか。
差別を扱いながらも、重さをほとんど感じさせないって逆にすごくない?オーソドックスな映画も悪くないよなーと久々に感じました。
つっても、やっぱりアメリカじゃ、一部批判的に取られたりしてるっていうんだから世の中は複雑ですね。
あ、そうそう。この映画は実話ベースなんですよね。
イタリア系移民の強面、ヴィゴ演じるトニーさんは、まあとても解りやすいキャラなんだけど、対するマハーシャラ・アリ演じるドン・シャーリーさんは「何なのこの人?」って誰もが思わずにいられない人物。だって、黒人は貧困で差別されて大変な目にあってる時代なのに、金持ちでインテリでピアニストって。
あまり知られてない人らしいのですが、かなりの上流階級にいる人だったみたい。
クラシック音楽出身のピアニストなので、当時、庶民に親しまれた黒人音楽に疎くアレサ・フランクリンも知らないというw。逆にイタリア系のトニーのほうが黒人事情に詳しいというギャップがコメディになってるんですよね。実話なのに、まるで作り話のような面白い設定(貧乏白人が金持ちの黒人に雇われる)。
差別の話を逆に利用してそのギャップをうまくヒューマニズムにして描かれているのが面白いんですよね。差別よりもギャップメイン。
もちろん不穏なシーンやちょっと重いシーンもあるんです(入れないとそれはそれで偽善っぽいし)。ただそれを無理に引っ張らずに直後にギャップコメディで笑いに持っていくので、サラッと軽い気持ちになるんですよね(そこが気に入らないって人ももちろんいるのかもだけど)。二人の立場や主導権がバランスよくころころ変わるのが面白い。
そうそう、この映画はフライドチキンが食べたくなる映画ってツイッターで見かけたんだけど、本当にそうでした。ただ、これもツイッターで知ったんだけど、フライドチキンというのは黒人文化に密接に関わっているものらしい。え?何それ?と思うのは無理ないですよね。日本人なら。
映画『グリーンブック』に併せて、Netflix『アグリー・デリシャス』の第6回、フライドチキン回を見ておくといいと思う。カジュアルな食べ物であるフライドチキンだが、アメリカ社会では人種と根強く結びついてしまい、非常にセンシティブな意味を背負う食べ物でもあると知り、なかなか衝撃を受けた。 pic.twitter.com/sS2f1bacHF
— ぬまがさワタリ@『絶滅どうぶつ図鑑』&福岡マリンワールドで1月よりコラボ展! (@numagasa) March 2, 2019
ここで紹介されているNetflixの『アグリー・デリシャス』6話を観てみました。チキンとスイカを出すことが黒人を侮蔑する行為なんてまったく知らなかった。勉強は大事ですね。
この事からも、ファレリー監督は黒人差別にちゃんと向き合っていると伺えるのだけど、まあどこまで行っても白人監督の撮った映画と言われちゃうんだろうね。
アカデミー賞の話に戻すと、マハーシャラ・アリは助演男優賞をゲットしました。
でもこの映画はヴィゴ・モーテンセンもマハーシャラ・アリどちらも主演であり助演でもあるので、正直両者にあげないとおかしいでしょ、ってくらいどちらも良い演技してました。この映画が心温まる映画になっているのは、ヴィゴ・モーテンセンのおかげと言っても過言ではないくらい。
最近お友達?になったミセスGさんのブログのレビューにも同じこと書かれてました。同意!
ちなみに、「ヴィゴ・モーテンセン」で画像検索すると、やはりブログでお友達になったseicolinさんの「ミーハーdeCINEMA」のイラストが上位に表示されます。マジ凄い!
もひとつちなみに、私が使ってるゾンビのヘリボーイアイコンはseicolinさんから頂いたものですw
『ヒストリー・オブ・バイオレンス』とか『イースタン・プロミス』で、とんでもなくバイオレンスな役を演じたあのヴィゴが、お腹でっぷりのオッサン役で愛らしいってのがなんとも複雑な気持ちになります。
ここからどんどんお笑い路線に行ったらどうしようw
下手にアカデミー作品賞を取ったばかりに一部批判されたり、過剰な期待で見られるという不幸な面もありますが、60年代の町並み、きれいなピーコックグリーンのアメ車、60'sファッション、などなど映像もほんと素晴らしい、良い映画だと思います。
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ヴィゴといえばたくさん良い映画あるけど、個人的なオススメはこちら。
マハーシャラ・アリも良い映画ばっかり出てますよね。ハウス・オブ・カード(ドラマ)のダントン役も印象的でした。
Netflix加入しているのであればぜひ「アグリー・デリシャス」6話も合わせて見てください。ガイドブックとしてのグリーンブックも出てきます。